【不動産売却】立ち退き交渉まで安心して任せられるところを選ぶ
売却したい不動産があっても、賃借人が存在していることから思うように売却できない。そうしたケースは、いまも昔も少なくありません。
そこで、賃借人との立ち退き交渉が必要になってきます。売り手としては、これを、できるだけ早いうちに、しかも費用を最小限にとどめながら済ませたいに違いありません。
ところが一方で、立ち退き交渉を巡るトラブルもまた、少なくないのが実情です。交渉を担当する不動産会社などが、そのトラブルを引き起こすのです。
最終的には私が土地の取りまとめを担当した東京都大田区内のある区域では、それ以前に土地の取りまとめに当たっていた不動産会社が、賃借人の息子兄弟間のトラブルを引き起こした例があります。
この不動産会社と兄弟の一方が結託し、母親を認知症に仕立て、自分がその成年後見人として代わりに借地の売買契約を交わそうとしたのです。
成年後見制度とは、認知症高齢者など判断能力の不十分な人を保護・支援する目的で創設されたもので、家庭裁判所によって選任された成年後見人などが認知症高齢者など本人の利益を考えながら、本人の代理として契約などの法律行為を行ったりします。
この制度を悪用し、勝手に自分たちのいいように話を進めようとしたわけです。これは不動産会社側と結託した例ですが、不動産会社側が一方的に賃借人を追い出そうとする例は、1980年代にも社会問題化しました。
手を替え、品を替えながら、しつこく攻め立てることから、賃借人は警察に助けを求めるものの「民事不介入」を理由に取り合ってもらえないという嘆きが随分と聞かれたものです。
不動産の売却仲介を依頼する相手を間違えると、こうしたトラブルを自ら引き起こしてしまいかねません。裏を返せば、立ち退き交渉まで安心して任せられる相手であれば、相当に信頼できるといえます。
もちろん、先ほど述べたように「非弁活動として」という注釈付きです。私の経験から言っても、まともな不動産会社とそうでない不動産会社との間で交渉の進め方には大きな違いがあります。
簡単にいってしまえば、その違いとは、丁寧か、荒っぽいか、そういう違いです。丁寧で信頼の置ける態度で賃借人の不安を取り除くことが先決です。
一番の基本は、賃借人のところに数多く顔を出すことです。賃貸マンションでの立ち退き交渉であれば、毎日出向いて、掃除したり水まきしたりするなどまるで管理人のように振る舞います。顔を見せることで、賃借人にとって身近な存在であろうとするわけです。
場合によっては、賃借人と一緒に立ち退いた後に引っ越しする先を探したりすることもあります。こうした日常的な努力を、丁寧に積み重ねていくのです。
賃借人に立ち退いてもらって初めて、ある開発事業が成立すると考えれば、ある意味では賃借人は共同事業主です。
普通の共同事業主のように開発事業そのものに参画するわけではありませんが、角度を変えて見れば、開発事業の進行に協力しているには違いないので、こういう表現も可能です。
したがって、例えば借地上の建物を所有する賃借人から借地権を買い取って区域外に転出してもらうとき、その買い取り価格には一定の配慮を惜しみません。
区域内の奥まった場所にある6坪程度の狭い借地。普通に評価すれば1000万円台の金額にしかなりません。しかしこの金額では、この近辺ではどこにも引っ越せません。
不動産の評価という理屈で額を提示するのではなく、どの程度の額なら賃借人の首を縦に振らせることができるのかという気配りの気持ちを込めて額を設定し提示することが必要です。
それが、共同事業主への対応としてあるべき姿です。立ち退き交渉でトラブルを引き起こすことのない不動産会社というのは、そうした姿勢で交渉に臨んでいます。交渉姿勢一つ取っただけで、どの程度信頼できるのかという点まで含めて全て分かるはずです。